近年、観測データの解析結果から月極域に水の存在可能性が示唆されています.JAXAでは月の水資源が将来の持続的な宇宙探査活動に利用可能か判断するために、水の量と質に関するデータを取得することを目的とした、インド宇宙研究機関(ISRO)との国際協働ミッションを計画しています。
- 量を調べる:既存の観測データから水の存在が予想されている地点において、その場観測により水(H₂O)の量に関する実際のデータ(グラウンドトルースデータ)を取得することです。
- 質を調べる:月極域におけるその場観測によって水の分布、状態、形態等を明らかにすることです。
また、このミッションでは、将来の月面活動に必要な「移動」「越夜」「掘削」等の重力天体表面探査に関する技術の獲得も目指しています。
月面南極域の日照シミュレーション
月の北極や南極では太陽高度が低いため、クレータの内部などの周囲より低い場所に長い時間日の当たらない「永久影」と呼ばれる領域が存在します。
これらの場所では、水が昇華せずに月表面近くに残っている可能性が高いことがこれまでの観測データにより分かってきました。しかし、水の具体的な量や分布、またどのような形態で存在しているかはまだ謎のままです。
月極域探査ミッションの概要
このミッションでは、水の存在有無を確認するだけでなく、水がどれだけの量、どのような分布で、どのような状態で存在するのかを調べます。
また、月の環境との関係を知ることにより、どのようにして今の状態になったかを解明するための知見を得ることも目的としています。
打上げ年度 | 2024年度以降〜 |
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打上げロケット | H3ロケット |
投入軌道 | 月探査機かぐやと同様の長楕円地球周回軌道 |
打上時質量 | 約6t〜 |
ペイロード質量 | 350kg〜 |
運用期間 | 3か月以上 |
着陸地点 | 月の南極域 |
主要ミッション機器 (【】内は担当機関) |
●【JAXA】水資源分析計(REIWA) REIWAは以下の機器から構成される。とりまとめはJAXA。 - 【JAXA】熱重量分析計(LTGA) - 【JAXA】多反射リフレクトロン型TOF質量分析計(TRITON) - 【JAXA】レーザー微量水分・同位体分析装置(ADORE) - 【JAXA】試料ハンドリング部(HNDG) - 【ISRO】ISRO試料分析装置(ISAP) ● 【JAXA】近赤外画像分光装置(ALIS) ● 【NASA】中性子検出器(NS) ● 【ISRO】地中レーダ(GPR) ● 【ESA】表層分圧計(EMS-L) ● 【ISRO】中間赤外画像分光装置(MIR) (※黄字からは、各ウェブサイトへと移動できます。) |
調査の流れ
環境や地質が特徴的な探査領域と、観測地点(way points)を事前に選定し、観測領域近くの長期日照地帯に着陸して、ローバを展開します。
ローバで走行しながら地下1.5mまでを観測し、水分布の可能性がある領域を識別します。同時に表層の観測を行います。
水分布の可能性がある地点で元素観測を実施し、水素が検出された場合は掘削・試料採取を実施します。そして採取した試料を加熱し、揮発性物質をガス化して化学種同定、水量分析を行います。
月極域探査機ミッションの期待される成果
資源探査の観点: 月の水資源の存在量・場所等の重要データの取得により、将来の持続的な宇宙探査活動に向けた水利用の可否判断が可能となる。
技術的観点: 小型着陸実証機(SLIM)で獲得する重力天体着陸技術の活用・発展、重力天体表面探査技術の実証により、自在な探査能力を獲得する。
その他の観点:国際協働ミッションへ貢献する。
月極域探査ミッションの検討の経緯
月極域探査ミッションについては、2020年1月に「月極域探査機プリプロジェクトチーム」を発足し、以下の活動を進めています。
- ISROとの協働ミッションに係る総合マネージメント計画の策定
- ISROとの探査機システム要求や各インタフェース仕様の検討
- システム要求審査(SRR)に向けたローバシステム要求の明確化
- JAXAが開発を行う観測機器の開発仕様の明確化
- 月極域探査機システムおよび関連システムの概念設計
- 着陸地点検討、など